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#自分史のブログ 山の辺書房自分史編集室より 連載第14回

連載第14回
暴走機関車

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 私は、開業以来百本以上の原稿を読み、意見を言ってきた。なかには著者と喧嘩したこともあった。私の書き方指導に不満を持つクライアントも少なからず居た。
 その方々はご自身の文章に少なからず自信をもっていた。これは結構なことだが、読者への配慮が欠けている。

 

   自伝は文字通り〝自分のことを書く〟作業である。それで書く内容は万事細部まで分かっているから一気呵成に書きまくる。これは素晴らしいことなのだが、勢いがつきすぎて暴走機関車となることが多い。停まるべき駅をどんどん通過してしまっている。終着駅までノンストップだ。

 

 終点で〝完〟と書いたとき大満足。得意げに膨大な枚数の原稿を持ち込んでくる。当人は達成感バリバリだ。なかには四百字原稿1000枚余の大作を風呂敷に包んで私の前にデンと置いて、これを本にしてくれという御仁も居た。後日ご連絡します。とお原稿を受け取る。
 正直言って他の出版社であれは大喜びする代物だ。
 つまりは〝金になる〟ケース――二つ返事で引き受けるだろう。

 他の仕事の合間にそのお原稿を拝読した。
 何と言うことでしょう――よくここまで書いたもんだと関心するやら驚くやら。


 ところが、主語が無い・述語が句読点の(、)連続でどこまでも続いている。まさに暴走だ。内容はなんとなく分かるが、どうも〝嗚呼そうなのか〟と得心できない。また、ご自身だけが事の成り行きを熟知しているので分かっているのだが私は第三者でクライアントさまのことは全く知識が無い。書き方ガイド(前述)のキャッチボールが出来てない。

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「果たしてこれで、情報ゼロの読者が読み進めてくれるだろうか?」
 おそらく……折角買った本ではあるが、数ペーシ読んで放り出すに違いない。

 原稿内容は数奇な人生を語っているので合格なのだか、著者に対して予備知識皆無の読者は混乱するだろう。――残念!

 後日クライアントに連絡した。してやったり顔をしている。「素晴らしいですね」という私の言葉を待っているようだった。
「長いですね」と私の第一声。

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 それはもう大変な人生でしたからね、と口には出さないが表情で示している。次の言葉を待っているようだ。

「これは草稿で、校了原稿にはなりませんね」と私。
 クライアントさまの表情が変わった。きっと予期せぬ私の台詞だったらしい。
「あなたの人生のおおよそのことは分かりました。――でも、自分史にするには長過ぎます……まず、この原稿枚数を三分の一にしましょう」と私。
 クライアントさまのお顔が真っ赤に変化。余程びっくりなさったのだろう。しばらく無言。
「あなたのお原稿はまさに暴走列車です。中身は素晴らしいのですから適当に停車駅を入れてくれませんか。そうすることにより重複した事象が整理され、結果的には原稿枚数減、同時に第三者も理解が深まりますよ」
 こんなやりとりも少なからずあった。

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 出版費用が潤沢なら、私が現地取材・聞き取り取材して請け負ってもいいのだが、できるだけ安価に仕上げようとする場合は、申し訳ないのだがもう一度お原稿の書き直ししていただく。

 その他、諸々の実例などをコピーし、参考にしてくださいと言って再挑戦をお願いした。

――結果、私の編集室での出版は見送られた。
つづく

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